「・・・は?」
メイベルは唖然として、メイガスの体に起きた異常を目を凝らして凝視する。
傷が、消えた。
魔弾の射手を使ったわけでもない、回復アイテムなんてものがあるはずもない。
しかし、現にメイガスの片腕はまるではじめからそんなもの負っていなかったかのように
すでに起こったことをまるで否定したかのように、傷も火傷もすべて消えていたのだ。
「種も仕掛けもございません…ね?」
メイガスの涼しい声が、メイベルにその現象を『そういうものだ』と納得させようとする。
まるで脳を直に押さえつけて、そう暴力的に納得させるかのように…しかし
「ふ…ふざけるな、なら何度でも食らわせてやるまで…!!」
「『まだ貴女の手番じゃなぁい』」
メイガスが声を張り上げて宣言する。
すると、ギチリとメイベルの全身が固まり動くことを拒否する。
「ぁ…く…ぇ?」
メイベルはわけがわからない、と言うように目を白黒しながら動かない声帯を必死に動かそうとする。
「言っとくけど催眠術じゃないわよん♪
言うなればこれも能力と言ったところかしらねぇ?」
メイガスは動けなくなったメイベルの腕に向けて手をかざす。
「『その腕いらないわね?』」
「あっ…!!!が!!!!!!」
メイガスの言葉に従うように、動けないメイベルの腕を蒼い炎が焼く…
否、これは炎ではない、炎がこんなに冷たい訳がない。
確かにメイベルの腕を焼いている筈なのにこの炎の周りが異常に冷たいのだ。
そう、まるでその周囲の空間がおびえるかのように。
「ほらほらほらぁ!!!反撃してみろよぉ、腕が無くなっちゃうわよぉお!!?」
「こん…のおおぉぉおぉおおお!!!」
メイベルは抵抗する周囲の空間を振り払うかのように声を張り上げて赤手を振い、メイガスの呪縛を解く。
燃やされた片腕の痛みを無視してメイガスに接敵し、せめて一撃を入れようとするが…
ガクリと膝が曲がり体制が崩れ、逆にメイガスの腕がメイベルの頭をつかむ。
「グゥ・・・」
「思ったより全然ダメだなぁメイベルゥ?
やっぱり魂を移植したのは改悪だったか…踊壷ちゃんの頼みとはいえ依代にこんな反抗的なもの入れていたら邪魔でしかないわ…」
メイガスはギ、ギ、ギギ・・・と、メイベルの頭を強く握り、メイベルの頭の奥にある魂さえも握りつぶさんとするように力を込める。
「おやすみ朱天童子、次に目覚めるときはもう少し操りやすいように脳を弄らせて貰うわ…
『その躯の本来の持ち主』に、ちゃんと相談してからだけどねぇ…?」
ブツッ
止めようと声を上げる暇もなく、テレビの電源を切るようにメイベルの意識はその場で途絶えた。
「・・・・・・あ、れ…?」
メイベルが目覚めたときには、周囲は蒼い炎に包まれ暑さと冷たさがないまぜとなった奇怪な空間となっていた。
その中に倒れるのは、同じ蒼い炎に背と腕を焼かれていたメイガスだった。
「何が…」
「く・・・くく・・・くひゃは」
メイベルが状況を確認しようと周囲を見ようとした時、気絶していると思われたメイガスが突然笑い始める。
「
あぁっはっはっははははあhっはっはっはっはっはっははははははははひひひひいっひゃひゃははははははははっはははははははははははははははっはははっははははははははははははははははっははははははははh」
うつぶせに倒れてなお聞こえるメイガスの高笑いに悪寒を感じて後ずさるメイベル…メイガスはうつぶせのままメイベルへ向けて言い放つ。
「勝手にすればいいじゃない、好いわよもう…」
そう言ってよいしょと、いまだ平然と起き上がりメイガスはメイベルの頭に手を置く。
「ハィ、刷り込み解除ね」
メイベルはこの時になって気づくが、メイガスは決して平常ではなかった。
目じりに涙をためていた。
「あぅ、あ…ありがとなのじゃ、おししょ…メイガス」
言えた、『お師匠様』ではなく『メイガス』と。
どうやらメイベル・モルガーナにプログラミングされた刷り込みは本当にその効果を失ったようだ。
しかし、自分が気を失った間に何があったのか…それだけは聞くに聞けなかった。
メイガス本人も、それは聞かれたくないことなのだろう。
こうして、メイベル本人でさえ決して納得するにしきれない奇妙な形で
最初で最後の師弟喧嘩は幕を閉じたのであった。
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