集中講義が始まって一週間、カンダ先生に対抗する生徒は結局全面降伏となる。
土蜘蛛の能力を封じられた私達は歳相応の幼子でしかない。
何をしても片手間に避けられ、授業の妨げにしかならないからというのもある。
現代に生きることを選んだ私達は、集中講義だけはきちんと受けなければならない義務がある。
故に結局、納まる席にに着くしか無いのである。
現代に生きる事を選んだ…私も…
本当に…?
「ん…」
ぽむぽむ
居眠りから覚めた私の頭を、丸めた教科書がゆるく叩いた。
「うに…」
「何も言わん真面目ちゃんだと思ってたが、つかれたのか?
講義始まって一週間で初めての居眠りだな、えーと…」
カンダ先生は私の名を思い出そうとするが、解るはずは無い。
私には今名前は…
「燕糸…」
バシィ!!!
私は反射的に先生から名簿を奪っていた。
名前を確認すると、私の席には…
燕糸 八重架
「………………………」
あの戦の後だ、情報の混乱なんてざらにあることだった。
しかし私にはそれがどうしようもなく悔しく思えた。
「気分が悪いので帰る
……その名前は間違えじゃ、消してくれ」
私は席を立って教室を後にした。
追うものは、誰もいなかった
だって…気分が悪いのは本当だった。
実際追うものがいないのも私が
血の気が引いて青いとも
泣き出しそうで赤いとも
どちらともとれる顔色をしていたからだ
寄宿舎に着いてすぐ、私は重力に体を任せ少し背の高い布団、べっどと言うものに倒れ込む
土蜘蛛戦争の後私達に貸し与えられた環境は、生活様式は違えど良いものだった。
かと言って、失ったものが無いわけでもない
言っても意味が無いことなんか解っている
しかし、思い出す以上こうなってしまうのだ、溢れる涙も 傷む心も 全て借り物だというのに
「…っく……ひっ…く…八重架ぁ…」
啜り泣く声も動作も、止まらない
早く、私の存在を返すその時が来ないかと
切望しながら