満月の下、杉の木の頂点に立つ武者鎧の男…
男は風と共に揺れ動いた杉を見て微笑み、その上に立った少女に語りかけた。
「・・・久しいな、八尾・・・」
少女…黒と紫の巫女服を身に付けた少女、今は名を燕糸・八尾という…
「・・・将軍、投降願います・・・。」
将軍と呼ぶその男を、決意を秘めた紫の瞳を凛と光らせ見やる。
「・・・断る、拙者にはまだやらねばならぬ事がある・・・
八尾、お前にもわかるだろう?女王を失った私達葛城蜘蛛の民にはもう未来が無いということを・・・
おまえと、出雲の恩方様は・・・
いや、学園に投降したお前達は今後人間として生きていくつもりなのか?
蜘蛛の民としての誇りを失ってまでも、生きていけるというのか?」
詠唱兵器、長槍を構えて…将軍は続ける…。
「某は学園に少しでも報復をして散るつもりだ…
そこをどけ・・・」
「嘗ての部下のよしみ…ですか?」
頭に被った鉄の飛斬帽、仏法僧に手を掛けて八尾は目を細めた。
「・・・断ります。」
その言葉と同時に、八尾めがけて数体の蜘蛛童が飛びかかった。
たん、と枝を蹴り八尾は一本足を立て杉の頂点で駒のように舞い蜘蛛童達を弾く。
枝に片足をかけ静止し、将軍に向かい飛斬帽を投げる。
グワン!!と音を立て将軍は襲い来る鉄の塊を蹴りあげる。
縦に回転しながら宙に舞う飛斬帽
八尾はその場から跳び上がり、飛斬帽を手に取る。
そのまま将軍に振り被り自重をかけて振り下ろす。
「・・・!!」
将軍はその一撃を傾けた槍で受け流し、隙の出来た八尾の腰に蹴りを入れる。
「・・・・・・っぐ!!」
少し吹き飛ぶが、枝を掴みその場に一回転して体制を整える。
その隙に将軍は杉から飛び降り走り出すが、追って降りた八尾に行く手を阻まれる。
「・・・もうやめて下さい将軍!!」
「・・・そこをどかぬというなら、某は貴様を敵と判断する。」
槍を構えなおす将軍に、飛斬帽を構える八尾。
「・・・構いません・・・。」
・・・・・・しばしの間が二人には長く感じられる。
「「!!!!!」」
火花が散る、金属がぶつかり合う騒音が一秒の間に幾つもあがる
「人間の軍門にそこまで媚びるか!!!
才ありき燕糸の巫女の教育もその程度だったようだな!!!!」
将軍の言葉に、八尾は丸い目を鋭く細めた…
死合いの末、長槍が宙に舞った。
将軍の眼前に飛斬帽を据え、八尾は言い放つ。
「私も姉様も…蜘蛛の民を辞めたつもりは御座いません・・・
私は、鋏角衆の燕糸・八尾です!!」
攻撃が掠ったのか、額から血を流しながらも八尾は再び将軍を見やる
「八重架様を貶めることは、例え土蜘蛛が女王でさえ赦しはしません!!!」
「・・・・・・くっ!!」
将軍は跳び下がり間合いから離れる。
「…いずれ…また来る。」
そう言って将軍は満月に照らされない闇の中へと走り去って行った…
安心した八尾は飛斬帽を落とし、重く息を吐いて膝をついた。
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