蜘糸商会社長室にキーボードを叩く音が室内に響く
「将軍に会いました…」
八尾はパソコンを弄る踊壺に先日の事を報告した。
「そおか、捕まえることはできへんかったみたいやな…」
「…申し訳ありません…」
踊壺はキーボードを叩く手を止め、八尾を見た後ため息をついた
「…ふぅ、八尾ちゃん…謝ることはないよ…」
「あ……」
椅子の背もたれに寄りかかり、踊壺は語り始める
「将軍なぁ、覚えとるか?
八尾ちゃん連れてきたんも将軍やったの。」
「……はい、八重架様や姉様に話は聞きましたから」
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「この童は人が喰らえませぬ…最早土蜘蛛様への進化は不可能でしょう…
否、稀に初めからこうなる為に生れて来たような童がいるのです。
ですから、どうかこの童を貴方の下で…才ある燕糸の巫女…」
将軍…そう呼ばれる鋏角衆の一人が一人の巫女に頭を下げる
「私でも、それは不可能やよ」
現在の踊壺と同じ口調で、巫女は応えた…
「出来損ないに…なる他ないのですか」
「…できそこないなんて蔑む権利は、誰にもない思う」
傍らにておとなしく待つ蜘蛛童の頭に手を置き巫女は続けた
「土蜘蛛様の眷属だから…って言う訳でもない
鋏角衆には土蜘蛛様を直接護る力がある、童を連れて戦う才がある」
「…しかし…」
将軍は反論をしようと口を開くが、続きを言う事は出来なかった
実際、鋏角衆に生まれたことを恥じ巣の元を離れた仲間を彼は多く見送ったから
「700年の昔に至っては、群れから離れることはそのまま死を意味するとし
ても拙者は見送るしかできなんだ…
700年たった今でもそれは変わらない、ただ不条理だとしか…思う事しか拙者には…」
「…この童、私と恩方様に預けてくれへんでしょうか…?」
巫女の立つ後ろに、出雲の恩方がただ童を見つめていた
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「私達はあの中でもイレギュラーな存在やったからな、苦労かけたとおもっとるよ。」
「いいえ、姉様と八重架様に会えて…二人に育ててもらって良かったと私は思ってます。」
「私もや」と、踊壺は微笑む。
「なぁ、八尾ちゃん…人間と来訪者の共存って可能やと思うか?」
「・・・・・・ぇっ?」
突然の踊壺の質問に八尾は少しばかり上ずった声で聞き返してしまう
それは、質問した本人にとっても今を生きる目的であり最大の課題
「私達のご先祖様は恐らく私達でさえ生物的に驚異的な進化をしたものばかりの異世界の住人や
私達の中には当然平和な世界で進化した人間の事を見下す者もおる、過去の土蜘蛛と鋏角衆にも言えたことや。
…この世界でのクロマニオン人種みたいに進化の中で淘汰される存在は歴史の中に確かに存在しとった…」
辞書や資料で知る言葉も交え、踊壺は続けた。
「私は暖かいから好きや、暖かくて柔らかくて…それは心も体も。
だから私は人間に仲間入りしたい、友達がたくさん欲しい
鋏角衆の可愛い妹ともなぁ♪」
少しの沈黙と共に、八尾は口を開いた。
「…私や姉様は、蜘蛛の民を辞めているのでしょうか…?」
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「恩方様と一緒に、立派な鋏角衆にしたります。」
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「…八尾ちゃんはどうなん、立派な鋏角衆になれた思うか?」
答えは…出ている…
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