『ダメっ!!行かんでくれ…八重架、待ってたも!!』
『駄々っ子はいけませんえ…この戦が終わっても、つよぉ生きて…幸せになってな。』
あの日、恩方様がどれだけ止めても八重架様は戦地へ進む足を止めなかった…
私は鋏角衆として、あの人と共に戦地へ赴いていた。
当時能力者達は来訪者をゴーストとして認知し、私達を殺す事に躊躇いがない者が多かった。
八重架様は恩方様を戦地へ出すまいと必死だったのだ、私の事も…身を呈して守ってくれた…
倒れる無人の家屋、その下にいた私達を押しのけて…
私は倒れた家屋の下必死で八重架様を探した。
『八重架様っ…大丈夫ですか…八重架様ぁ!!』
『けふ…やおちゃん…私はなぁ…これまで何もできない自分が、どうしても好きになれへんかったんや…』
『でもなぁ…君達を育ててこれたことは…私の誇りやえ…だから、やお…』
『おんかたさまと…一緒に…幸せになって…なぁ…』
八重架様がそうおっしゃられた時、最後の柱が崩れて…
私が目を覚ました時には、埃に塗れた恩方様が…すぐ隣で八重架様の亡骸を弔っていた。
『八尾…妾はどうしたらいいのじゃ?…また忘れられなければならないのか?』
『それとも、妾を忘れた者達のように…八重架のことを忘れろと申すのか?』
赤手の肩を震わせて、私に寄り添って…恩方様は泣いていた。
『ああああぁぁぁぁん!!うあああああぁぁぁぁん!!』
…あの時の恩方様の泣き叫ぶ声は…恐らく、一生私の耳に残るだろう…
『八重架様は、私達を育ててこれたことが誇りだとおっしゃられておりました…』
『泣かないで下さい……うっ…私まで…ふ、うああぁぁ…』
私達は、瓦礫の中で泣きあった…そして銀誓館学園へ投降した…
そしてやがて女王の戦死が告げられ戦は終わりを告げた…
まだ肉体的に小学生よりも幼かった私は集中講義の後、ある意味では残酷な依頼を出された。
世界結界の乱れを防ぐため、常識外の記憶が消えるまで…娘を偽って
燕糸の家に滞在し続けろというものだった…
少し上の学年で講義を受けていた恩方様と再会したとき…私は驚愕した
『久しぶりやね、八尾ちゃん。』
…長く流麗な白髪を八重架様の髪飾りで飾り
燕糸・踊壺と名を改め、唯一知っている現代語を扱う恩方様の笑顔は…
非情なまでに儚く…綺麗だったから…
『行ってきます、踊壺様…』
『行ってらっしゃい…でも、これからは踊壺様とか恩方様とか…ナシやで。』
『……はいっ。』
この笑顔を…遠くからでも護っていきたい、私達は生まれた時代は違えど
八重架様に育てられた…
『私達は…姉妹やから…なっ♪』
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